2010年9月2日木曜日

Zapposというユニークな会社は仕事のあり方を変えるか。『Delivering Happiness』を読んで

とっても面白い本です。
タイトルは「Delivering Happiness」、Zapposというオンラインの靴販売業者のCEO, トニー・シェイ(Tony Hsieh)の書いた自伝&会社史の本です。…と書くと面白くも何ともなさそうなのですが、ニヤニヤしながら読める事間違い無し。な楽しい出来ばえの本です。

Zapposは日本には進出していない事もあってまだそれ程知られていないと思いますが、09年にAmazon.comの傘下に入ったことをご存知の方もいると思います。企業規模が違うこの買収に当たり、大手であるアマゾン側が非常に気を遣って、Zapposの従業員と顧客に向けてビデオメッセージを流しました(youtubeはこちら)。こんな事からも、アマゾンが非常にZapposを大事にしている事がわかります。

この靴通販、ZapposのCEOであるトニー・シェイ(Tony Hsieh)は、ビジネスの世界では買収前からユニークな企業文化と販売手口で注目されていました。ビジネスサイトでのインタビューなども多かったようです。日本でも時々、インタビューが公開されています(ここ とか)。この本もおそらく近いうちに日本語での翻訳が出される事でしょう。そうしたらもっともっと日本のメディアにも出てくるであろう、そんな個性的な経営者です。

すっかり前置きが長くなりましたが、この本の内容を少し紹介しましょう。




まず、トニー少年の子ども時代の話から始まります。

両親は台湾系で、大変教育熱心です。成績はオールAが当然, テレビは週に1時間しか見る事を許されず、音楽はピアノとバイオリンとトランペットとフレンチホルンを同時に習わされます。そんな中で彼が興味をもったのは「お金をもうける」事でした。100匹のミミズを買ってきた彼は、それを増やして「ミミズ牧場」を作り、一儲けする事を企みます。トニー少年は果たして上手くお小遣いを増やす事が出来たでしょうか?

また後には、雑誌の通信販売をしたり、自分で新聞を作って売ろうとしたりします。とにかく、一儲けするために工夫を惜しまない子どもだったのです。

大学を卒業した後、友人と起業して、LinkExchangeという会社を作ります。インターネットの創世期と重なって、この広告を売る会社は、あっという間に軌道に乗り、どんどん大きくなっていきます。買収の話も何度も舞い込みます。

…しかしある時彼は、利益を生み続けるこの会社に、興味を持てなくなっている事に気づきます。会社に沢山いる従業員の中に、顔も名前も知らない人が沢山いる事に気づきます。…一体、何が間違っていたんだろう?



結局、マイクロソフト社が2億6500万ドルで彼の会社を買います。共同創業者であるトニーは多額のお金を手にしました。それを元手に、彼と友達はネットのベンチャー企業向けの融資を始めます。そこで出会った会社の一つがZapposでした。

初めてZappos創始者のNickから電話がかかってきた時、トニーは「靴なんて誰も試し履きせずには買わないよ」と、留守電を消そうとしました。ところが「靴産業は国内40億ドルのビジネスです。そのうちの5%が、カタログによる販売です。ここの顧客を取り込めれば商機はあります」という言葉が気になり、会ってみる事にします。

このように、最初はZapposにはお金の面でだけ関わっていたトニーですが、やがて転機が訪れます。より深くZapposにかかわり、その企業の浮沈を賭けた大きな危機をいくつも乗り越えていく事になるのです…。

*     *     *     *     *

と、あまりネタばれしすぎても読書の楽しみが減りますのでこのくらいにしますが、面白いのでガンガン読めてしまいます。トニーの人生そのものも面白いのですが、文章が非常にコミカルなのです。…この本が出る以前から私は彼のtwitterアカウントをフォローしているのですが、140字でわかりやすくクスクス笑える文章を書ける英語アカウントの人は他にほとんど知りません。

また、これだけ幼少期から「お金儲け」に興味があった人の本の読後感が三ツ矢サイダーみたいにすっきり爽やかなのは、彼にとってお金を稼ぐというのは自分を試すためのゲームのひとつであって、決してお金持ちになる事自体が目的ではないからでしょう。企業である限り利益はさけては通れない問題だが、もっとも大事な事はCompany Culture, 企業文化である、と、トニーは言います。それは彼を億万長者にしたLinkExchangeでの喪失感から彼が学び、そして新しい会社では決して失わないように大事に守ってきたトーチなのです。Zapposの顧客や見学者に無料で配る、毎年発行のカルチャーブック(従業員が作る)が有名です

そして、Zapposという会社は、彼の信念の現れです。Zapposは、カスタマー・オリエンテッドを目指し、顧客の満足を第一に掲げています。例えば、通常カスタマーサービスの電話オペレーターというのは、一日に何個の仕事をこなせるかをカウントされます。つまり早く切った方が、オペレーターの能力評価に繋がるわけです。ザッポスは違います。オペレーターは顧客が満足するまでずっと話していていいのです。確か会社の電話最長記録は6時間だと載っていました。

電話サービスのあり得ないくらいユニークなエピソードが他にもいくつか載っています。

また、従業員同士を結びつけるための工夫も数々あります。例えば、ラスベガスにある本社ビルでは、入り口が一つしかありません。駐車場側の便利な場所のドアを開放しないのは、一カ所から入って従業員同士が互いに顔を見合い、結びつきを強めるためです。また、パソコンにログインする時には、普通の会社ではIDとパスワードで入るのですが、ザッポスではもう一つ答える必要があります。ランダムに選ばれた従業員の一人に関するクイズが出され、それに解答する必要があるのです。それは必ずしも正解でなくてもパソコンにはログイン出来ますが、正解率は出されます。


…すみません、また追加ネタばれしてますね(笑)

つまり、ザッポスは、顧客と、従業員と、そしてベンダー(卸主)の三方の満足を満たそうと努力している会社なのです。

Zapposのサイトを見るとわかりますが、ここの靴ははっきり言って、高いです(笑)特に実店舗の店には、同じブランドの靴でもずっとずっと安いところが沢山あります。

しかしその値段であってもカスタマーサービスが良ければ、顧客は満足できる。むしろ「企業文化」という付加価値をつけて、カスタマーをハッピーにする。どうもこれがザッポスのビジネスモデルであるようです(ここは私見です)。


ところでこの「Delivering Happiness」の本ですが、私、なんと無料でもらいました(^^) ある日、twitterで「今日の○時までにサイト登録してくれた人に、無料で本を送るよ」と言ってくれたのです!もともと発売されたら買おうと思っていた私には渡りに船。早速登録しました!!! その時、国名も選べたので、多分日本にも送ってくれたのだと思います(試してませんが)。そうしたら発売日にアマゾン経由で届きました。アマゾン?と思ったけど、そういえば傘下だったっけ…

twitterを見ていると、無料本を受け取った人は本当に沢山いる模様でした。これも宣伝の一巻と捉えているのでしょうか。マーケティングが上手いですね!まぁ無料で頂いたのでせめて各所で宣伝しようという気持ちもあって熱を込めて紹介していますが…しかしそれを差し引いても実に楽しい本ですよ!




Delivering Happiness: A Path to Profits, Passion, and PurposeDelivering Happiness: A Path to Profits, Passion, and Purpose
Tony Hsieh

Business Plus  2010-06-07
Sales Rank : 12
Average Review  

See details at Amazon by G-Tools

2 件のコメント:

  1. Heish→Hsieh
    日本語版を読みましたが、Happinessについて考えさせるいい本でした。

    返信削除
  2. わぁ、osamu様、長い間コメントに気付いていなくて申し訳ありません。
    名前の間違い訂正しました!
    12月に日本語版が出たようですね。もっともっと話題になってよい本だと思います。

    返信削除