2010年5月8日土曜日

現状としての移民問題、DVD『闇の列車、光の旅』”Sin Nombre"

アリゾナの「嫌・移民法」が大きな話題になっていますね。
アメリカに住む不法移民というとまず真っ先にメキシコ系移民が思い浮かぶ人が多いと思いますが、実際にはメキシコより南、中米から北へ向かって、幾つかの国境を越えアメリカを目指す人々もいます。この映画のヒロインは、ホンジュラスからアメリカを目指します。





【あらすじ(前半ネタバレ注意)】
ホンジュラスに住む女の子サイラのもとに、アメリカに出稼ぎに行った父が帰ってくる。アメリカで出来た二人の娘と一緒に暮らそうという父と一緒に、彼女は米国を目指すことにする。
一方、カスパルはメキシコ、チャパス(南部の州)の、ギャングメンバー。12歳の少年スマイリーを組織に紹介し、自らもギャングの中に居場所を見いだしていた。その二人が、北に向かう列車の屋根で出会う。片方は強盗する側、片方はされる側として。そしてその事件は起こる…


【解説・感想】
とても重くて心が痛い映画です。
これは映画館で座っては見ていられなかっただろうなぁ。しんどかった。
ヒスパニックの人の命の軽さ、これはほとんどのアメリカ人や日本人にとっては想像するのも難しいことで。私たちとは違い、あっという間に命が無くなっていく…



移民問題もさることながら、ギャングのメンバーの生活の描写が非常にリアルです。監督をした日系4世のキャリー・ジョージ・フクナガ監督は、このギャングについて2年間リサーチし、実際にメンバーと接触もしてから撮影したとの事。

全身の入れ墨が特徴的なマラ・サルバトゥルーチャ(MS、Mara、MS-13等と呼ばれている)のギャングメンバー。アメリカからメキシコ、中米まで、彼らのネットワークは広く、構成員は7万人になるそうです。映画にはイニシエーションの儀式からリンチ、強盗と、彼らの(実際にはギャング役の、ですが)暴力場面が容赦なく映し出されます。

また、不法移民を目指す人々の移動の様子もしっかり描かれています。彼らが町の子供たちから石を投げつけられるシーンがあります。メキシコの人にとっては、中米から北上してくる移民は憎むべき対象だったりもするわけです。落ちれば確実に死ぬ汽車の屋根の上にじっと身を伏せて旅を続ける彼らの脳裏には何が浮かんでいるのでしょうか。

最後の国境の渡河シーンに、ほんとうにやり切れない気持ちになりました。物語としてはこうなる以外にはないでしょうが…。
壮絶な困難を超えてとうとう着いたアメリカで、画面に映し出されるシアーズやウォルマートの広い舗装された駐車場は、移民の目にどう感じられるのでしょうか。

不法移民問題も若年からのギャングへの加入も、どちらも貧困ゆえの避けられない問題です。中米の国の政府も、対策にお金がかける余裕がほとんどないのが現状で、どちらもが貧しい層にとって、生きていくための抜け道であるわけです。

米国側の富裕層から見れば、不法な移民が、市民の職を奪う、安全を脅かす、といった面がクローズアップされ、不法な移民を許さない立場の人が当然立法的にも強くなります。
不法である事を支持するわけでは決してありませんが、まず自国の経済の中では生きていく事さえ困難であり食べていくためにどうしても北米にいかなくてはならない、というヒスパニックの人たちの現状を、善し悪しで言う前に事実として認識する必要があると思いました。


『闇の列車、光の旅』およびMara Salvatruchaについて、参考にしました。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mara_Salvatrucha
http://mexicana.blog45.fc2.com/blog-entry-521.html
http://azafran.tea-nifty.com/blog/2010/02/sin-nombre-2b56.html
有り難うございました。

2 件のコメント:

  1. 前に住んでいたところは、圧倒的にいわゆる「アメリカ白人」が多く、私が住んでいた頃(2004年~2006年)にはちょうど「不法移民を許すな」という社会的な動きが盛り上がっていた頃でした。高速道路脇などにそういったスローガンを見かけることも多かったです。地元のニュースでは、不法移民が起こした重大な交通死亡事故が繰り返し報じられたり、同じ州内のそれほど遠くない都市でも、英語を公用語として定めよう(あくまで英語が公用語、つまりアメリカ人なら英語をしゃべりなさい、ということ)という動きあったりしました。
    私は市営の施設で英語を勉強していたのですが、生徒はほとんど全て中南米やアジアからの移民でした。
    不法移民も多かったようです。授業を受けるにあたって、いちおう、登録はしなければならないのですが、ひょっとしたら、そこは適当にごまかしていたのかもしれません。何にせよ、彼らのほとんどはすぐに来なくなってしまいます。
    施設で働いている人たちも、ある程度は彼らが不法移民だということは知ってはいたようですが、それ以上のことは追及しない、法によって追及を受けない限りは知らないふりをする、ということで、お互いの立場を守っていたようなところがあります。
    ある意味それは「関知しないというサポート」という風に見えました。もちろん、別の角度から見れば、ただの怠慢だったり、無関心だったりするのでしょうが、私の目にはどちらかというともう少し積極的な態度のように思えました。

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  2. >liyehukuさん
    こんにちは。コメント有り難うございます!
    「それ以上のことは追及しない、法によって追及を受けない限りは知らないふりをする」
    これはエルパソでもよくある態度ですよね。例えば公立学校だと親の滞在ステイタスは尋ねられないのではないでしょうか(←未確認ですが)。親戚や知り合いの住所を借りて通っている例についてよく耳にします。こういう事象は、平和で経済も上手くいっている時なら程よく無視されるのでしょうが、一旦テロや経済不振等が起こった時に真っ先にやり玉に上げられるんだと思います。
    去年の今ごろは豚フルが話題でしたが、初期の感染者にLower Valleyの小中学生が多く、新聞社の記事のコメント欄がだんだん豚フルではなく、「国境越えで通って来ることを許すな」といった論議であふれ出した事を思い出します。

    決して不法滞在を賛美する気はないのですが、ルールを外れる事に対して「ほどよく無視」という寛容性が失われてしまった、余裕の無い社会は非常に息苦しいだろうと思います。例えば今の日本を外側から眺めれば、めちゃくちゃ息苦しそうだなと(笑)

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