2010年8月27日金曜日

暫定今年のNo1映画『瞳の奥の秘密』~El Secreto de Sus Ojos~

ずいぶんと間が空いてしまいました。
書く事は沢山あるのに全然追いついていないです。はい、映画に本に音楽に、ちゃんと向き合って記録を残したいと思います。

2010年のアカデミー賞外国映画賞を受賞したアルゼンチン映画、『瞳の奥の秘密』~El Secreto de Sus Ojos~、都会の方では春には上映があった様なので、もううちの町には来ないものだと思っていました。ところが日本から帰ってきたら丁度やっていて、ラッキーだなぁ、と。





映画が始まって驚きました。
こんなに丁寧な、こんなに端正な映画が見られるとは!
アカデミーで、予想されていなかったこの作品が賞を勝ち取ったのも納得、納得。それだけの説得力のある実力映画でした。



【あらすじ(軽くネタバレ)】
刑事裁判所を定年退職したベンハミンは、25年前に起きたある事件を扱った小説を書くことを決心し、当時の女性上司で今は判事補のイレーネを訪ねる。その事件とは、1974年、銀行員の夫と結婚したばかりの美しい女性が自宅で強姦・殺害された事件であった。捜査開始後すぐに、修理していた二人の職人が逮捕されるが、明らかにえん罪である。被害者の自宅でベンハミンは、夫妻のアルバムに残るある男の瞳の妄執に気づき、その男を捜そうとするが難航する…。一方で当時のベンハミンの心を占めるの別の思いは、美しい上司イレーネに寄せる、いわば身分違いの思慕であった。


【解説・感想】
奇をてらわない、非常にクラシックな作りの映画でした。
謎解きものとして捜査に一本筋を通しながら見せる一方、ベンハミンと上司イレーネの、25年を超えた関係をも巧みに絡ませて、飽きさせません。捜査に緊張感を失わないようにしつつ、かつオールドファッションな笑い(それは今時の映画では滅多にお目にかかれない種類のくすっとしたおかしみ)を所々にのぞかせます。


ベンハミンの相棒パブロを演じるグィリェルモ・フランセーリャ(Guillermo Francella)、「Rudo y Cursi」のスカウト役です。このパブロの映画での扱いは謎解き映画の型にはまったものですが、そこはかとないおかしみが一種の清涼剤となります。

そして被害者の夫役Pablo Rago、正統派二枚目で妻を失った深い悲しみ、長く続く憎しみを演じたこの人の、25年後の姿はあまりにも…老け過ぎ??いやぁ、どーも腹巻き姿のカトちゃん(加藤茶)を重ねてしまって(笑)顔がどこか似ていませんか?しかしこの年齢以上に老けている姿こそ、この事件を25年間抱え続けてきた、彼の「瞳の奥の秘密」を反映しているのでしょう。

「瞳の奥の秘密」といえば、この映画には沢山の秘密を持った瞳が映し出されます。まず映画の冒頭の場面は、かつてある人物の目に映った風景、その瞳を通しての映像から始まります。そして犯人の瞳、ベンハミンの瞳、イレーネの瞳… それは時には持ち主の意思を超えて秘密を語りかけ、時には秘密をひた隠しにしますが、カメラのレンズは時を越え、ひとの秘密を可視化してしまいます。

また、ハリウッド映画とは違うと思えるのが、ベンハミンとイレーネが不正に憤る場面。圧倒的な力で言い負かされた二人は、何の抵抗もせずに帰途につきます。このあたり、アメリカ映画ではなんやかやのやり取りがあっても最後に正義が勝つのではないでしょうか。そこを黙って引き返すのがラテンアメリカという土地で作られた映画だなと思いました。テレビのニュースとして登場しますが、74年はイサベル・ペロンの時代。「ハーバードでは”新しいアルゼンチン”については教わらないだろう」と相手はイレーネを一蹴します。波に逆らわないようにしないと生き残れない、という時代でもあったわけです。

それからこの映画のハイライトの一つが、サッカー場での追いつ追われつの場面。長い長いワンショットで緊張を保ちながら、この時間、この距離を撮りきった、映画中の最大の山場の一つとなっていますのでご覧になる方はお見逃し無く!

さて、多少「オーバーに演出し過ぎ」という部分も見られながらも、クラシカルなサスペンス映画の王道を描いてみせた、この『瞳の奥の秘密』。あくまでも正統派の様式を継承しているのになぜか新鮮に見えたのは、今の映画はみんなこの「様式」をいかに壊すかということにばかり心を砕いている事への反動のようにも思われます。「様式」は心を砕いてなぞれば、これ以上居心地の良いものは無い。改めてそんなことを思わせる映画でした。

とりあえず、暫定今年のNo1中(笑)。


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